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花と熱海と大塚実その1

~日本花の会 和田博幸氏に伺う~vol.1

黄金時代からどん底へ~そしてふたたび注目されている日本を代表するキング・オブ・観光地...熱海。
週末はもちろん、平日も駅の周辺はお客さんで一杯だ。
筆者は熱海出身、実家はいまだに熱海にある。とはいえ、人生の殆どは故郷を離れ、国内外の移動生活を繰り返してきた。
数年前、故郷伊豆に戻り、大室高原に居を構え、久しぶりに熱海を散策。そのときに驚きとともに嬉しくなってしまったのは市内にセンスのよい植物がとても増えていたことだ。
いったいこれはどういうことだ???
さっそく、市役所に訊ねてみた...そして今回お話を伺うことができた和田博幸氏の存在を知る。

和田博幸 わだひろゆき
1961年生まれ 57歳
群馬県高崎市出身
東京農業大学農学部農芸化学科卒業
公益財団法人"日本花の会" 主幹研究員
樹木医

和田博幸.jpg
リグナビNEXTジャーナル プロのシゴト観〜より写真転載〉

ー熱海に活気が戻ってきています~その理由はいくつもあると思います。そのなかで案外表だって語られていないのですが、和田さんたちがここ10年ほど、計画的に植物を植えてきたことがこのありがたい現実を産み出しているひとつの大きな「根っこ」=エネルギーの素になっているのではと感じています。比喩的な言い方になりますが「花」や「実」はみな、ひと目で気づき、わかりやすいですが、「根っこ」の存在はまさしく縁の下の力持ち。でもじつは「根っこ」がなければ「花」も「実」も育ちません。

和田 もともと熱海は観光地としての条件が揃っているんですよ。風光明媚、気候、歴史、立地、交通の便、そしてもちろん温泉。バブル以降、旅行のスタイルが変わり、それに地元が対応するには時間がかかります。そんな状況が10年ほど続くなか、2006年、あたらしく市長になった地元出身ではない斉藤栄市政が誕生。ちょうどそのころ、私は日本一早咲きである「熱海櫻」の件で熱海とのご縁が出来ていました。

ーそうですか...

和田 齊藤市長は就任後、熱海市の財政が危機にひんしているということで「財政危機宣言」をしたそうです。それをきっかけに当時の議会や観光協会などを中心に「熱海のイメージダウンに繋がる。」ということで宣言の撤回を求め、市長との軋轢が生まれた...そんなおり、熱海伊豆山に宿「ホテルニューさがみや」を運営されている大塚商会の相談役名誉会長である大塚実さんが齊藤市長を表敬訪問しました。大塚会長は数々の社会貢献と環境・景観保全への取り組みをされており、齊藤市長に熱海市にも貢献したいという想いを伝えたそうです。結果、おふたりは意気投合、そこから"花"で全国にアピールする熱海市の再生が始まったのです。それは大塚会長の"私財"を投じてです。

ーわたしも市役所に市内の花の植栽について尋ねたとき、まずはその資金が税金なのかどうか伺いました。またアイデアそのものも市が立案したのか?、と。本来このようなことに税金を使うことは悪いことではないと思います。生活環境、しいては観光地である熱海のインフラ整備として"花を植える"アイデアに公共のお金を使うことは素晴らしい投資です。一過性ではなく永続性もあり...でも、現実は税金を使ってこのような未来への投資は難しいものです。ましては財政危機のおりに...そんなとき、熱海出身でもないにもかかわらず大塚会長の粋な男気ともいえるスポンサーとしてのこの"お金の使いっぷり"に感動を超え、超シビレてしまいました。人々の意識や精神性では最悪ともいえるこの時代に"ナイスセンスな平成の大旦那はん"が居るんだと!

和田 そのころの梅園は開園から100年以上たち、時代とともに梅や周辺の樹木が密集し鬱蒼とした景観となり、往時の優雅な姿が失われ、荒廃していました。「管理するには十分な予算がなく、荒れていてもしょうがない・・・。」ということだと思います。が、市長と会長の出会いがきっかけとなり、まず梅園の再生という具体的な設計や工事の作業の相談が、巡り巡って私に来ました。そしてこのプロジェクトに参加することとなったのです。

2007年3月から2010年の4月かけ三期に亘る工事を行いました。
まずは韓国庭園の前のゾーンを手がけることになりました。大きさと樹形の良い早咲きの紅梅と白梅を何ヶ所から手に入れ、バランスよく配置し、下草にササ類などを植えて仕上げました。
韓国庭園前工事(071214).JPG
〈Photo:和田博幸〉

↓このように
韓国庭園前工事(071224).JPG
〈Photo:和田博幸〉

この第一期工事の評判が良く、仕事が継続することになり、それ以降は梅園の周りの伸び放題だった樹木を整理して梅園内を明るくし、熱海梅園の顔とも言える入り口のゾーンを庭園らしく造り替えるなどしました。
梅園入口の庭園(120221).JPG
〈Photo:和田博幸〉

全体としては早咲きの梅にこだわり、梅と同じ頃に咲くロウバイやマンサク、ボケ、スイセンなども加え、華やかさと彩を意識しました。
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〈Photo:澤田聖司〉

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〈Photo:澤田聖司〉

園内が明るくなったことでカエデ類の紅葉も見事になりました。
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〈Photo:澤田聖司〉

現在では「日本一早咲きの梅と日本一遅い紅葉」を存分に楽しめる公園として生まれ変わりました。
熱海梅園(180223) (4).JPG
〈Photo:和田博幸〉

*参考資料
002寄贈庭園工事の概要-120181215102911.jpg
クリック梅園庭園工事の概要2007/12/21-converted.pdf

◆データー 熱海梅園
第一工期:2007年3月19日〜2008年1月11日
第二工期:2008年8月〜2009年1月8日
第三工期:2009年5月〜2010年4月14日
総工費:1億4千4百万

約40000㎡(12,000坪)
紅梅 約180本 白梅 約300本
紅葉樹 約380本
初夏にはほたるも乱舞するエリア
住所:静岡県熱海市梅園町8-11

●6月上旬
幻想的な蛍の舞を楽しめます。ホタルが初川清流とコラボして、まさに絶景。
熱海梅園ほたる観賞の夕べ
2018年6月1日(金)~10日(日)...終了
https://www.travel.co.jp/guide/article/9922/
!2019年も開催予定

●11月上旬~12月上旬
温暖な気候のせいか、毎年11月下旬から12月にかけて色づくため 「日本でもっとも遅い紅葉」ともいわれます。
早咲きの梅は11月中旬あたりから開花が始まるので、紅葉と梅が同時に見られることも。
第32回熱海梅園もみじまつり
2018年11月17日(土)~12月9日(日)...終了
https://www.ataminews.gr.jp/event/148/
!2019年も開催予定

●1月上旬~3月上旬
「日本でもっとも早咲きの梅」~11月下旬~12月上旬あたりに最初の一輪が咲き、3月の下旬ごろまで楽しめます。
一番の見ごろは2月の上旬から下旬にかけて。
第75回熱海梅園梅まつり
2019年1月5日(土)~3月3日(日)
https://www.ataminews.gr.jp/event/355/

2019_UMEMATSURI.JPG

〜つづく...花と熱海と大塚実その2

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