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369スタート 『フロントライン』に続き考えさせられた映画『でっちあげ』
*TAO LABより
先日、『フロントライン』ご紹介いたしました。
作品のスタイルは違えど描かれているテーマが同じもの、さらにどちらも実際の出来事を叩きにしているこの作品『でっちあげ』先日鑑賞いたしました。
映画『でっちあげ』は、冤罪(えんざい)をテーマにした日本映画で、特に児童虐待の虚偽申告によって引き起こされる家庭崩壊や社会的問題を描いています。
あらすじ
主人公は、ある日突然「虐待をした」と通報され、子どもと引き離される親。
証拠が曖昧にも関わらず、行政や司法は"子どもの保護"を最優先とし、
本人の主張はほとんど聞かれず、人生が崩壊していきます。
物語は、報道や支援者の目線を交えながら、「正義とは何か」「保護とは誰のためか」を問う展開となります。
原作
原作は福田ますみによるノンフィクション書籍『でっちあげ 福岡「殺人」教師事件の真相』。
実際にあった冤罪事件を基にしています。
2003年福岡で起こったこの事件、この書籍の「序章 史上最悪の殺人教師」を一部、長いですがあえて転載いたします。
火付け役は朝日新聞である。平成15年6月27日の西部本社版に、「小4の母『曾祖父は米国人』 教諭、直後からいじめ」という大きな見出しが踊った。そのショッキングな内容に地元のあらゆるマスコミが後追い取材に走ったが、その時点ではまだ、単なるローカルニュースに留まっていた。
これを一気に全国区にのし上げたのは、同年10月9日号の「週刊文春」である。「『死に方教えたろうか』と教え子を恫喝した史上最悪の『殺人教師』」。目を剥くようなタイトルと教師の実名を挙げての報道に全国ネットのワイドショーが一斉に飛びつき、連日、報道合戦を繰り広げる騒ぎとなった。
一体、「史上最悪の殺人教師」と名指しされたのはいかなる教師か。教え子を取り殺す悪鬼のような人物だろうか。実際、彼がしでかしたとされることは、極悪非道、悪魔にも等しい所業である。
件の男性教諭は、平成15年5月当時、福岡市の公立小学校で教鞭を取っていた。
発端は家庭訪問である。彼は、受け持っていた9歳の男児の髪が赤みがかっていることに目をつけ、応対した母親に、「○○君は純粋ではないんですよね」と切り出した。そして、男児の曾祖父がアメリカ人(朝日新聞などの第一報では、「母親の曾祖父が米国人」)であることを聞き出すや、「○○君は血が混じっているんですね」と言い、延々とアメリカ批判を展開した。
あまりのことに母親が、「それは差別ですか。学校では差別はいけないと教えているのではないですか」と抗議すると、「私も人間ですから」と開き直り、「建て前上、差別はいけないことになっているが、ほとんどの人間は心の中で差別意識を持っていますよ」と言った。
そして、あろうことか、「日本は島国で純粋な血だったのに、だんだん外国人が入り穢れた血が混ざってきた。悲しいことに、今では純粋な日本人はずいぶん減っている」と、差別意識をむきだしにした"演説"を3時間もまくし立てた。
不幸なことに、別の部屋にいた男児は、教諭がいたダイニングルームの近くを通りかかり、教諭の発した「穢れた血」という言葉を聞いてしまう。男児は、「穢れた」という言葉の意味がわからず、翌日、小学校の図書室に行き辞書で調べた。
その意味を知った男児は子供心に衝撃を受け、母親にしきりと、「僕の血は汚いと? 皆と同じ赤いのに、何で汚いと?」「顕微鏡で見たらわかると? うつらんと?」と聞いてくるようになった。母親は、男児にそう聞かれる度にやりきれない思いにかられた。
そしてこの家庭訪問の翌日から、男児に対する教諭の、言語に絶する虐待が始まった。
授業が終わって子供たちが帰り支度をする「帰りの会」の最中、教諭は男児に近づき「10数える間に片づけろ」と命じた。しかし、10秒で教室の後ろにある棚からランドセルを取り、机の中の文房具を入れるのはとても無理である。
明らかに嫌がらせだったが、教諭は、男児が10秒以内に片づけられないと、ランドセルや学習道具をこれ見よがしにゴミ箱に捨てたり、自分が考え出した次の「5つの刑」の中から1つを男児自身に選ばせて、虐待を加えた。
アンパンマン=両頬を指でつかんで強く引っ張る。あるいは両拳を両頬に思いきり押しつけ、ぐりぐりと力を込める。
ミッキーマウス=両耳をつかみ、強く引っ張り、体を持ち上げるようにする。
ピノキオ=鼻をつまんで鼻血が出るほど強い力で振り回す。
アイアンクロー=手のひらで顔面を覆い、指先に力を入れて顔面を圧迫し、そのまま突き飛ばす。
グリグリ=両拳でこめかみを強く押さえ、さらにぐりぐり力を込める。
そして、こうした一連の行為を、教諭自身が「10カウント」と呼んでいた。
男児がやむなくピノキオを選ぶと、教諭は男児の鼻を強くつまんでその身体を力一杯振り回した。そのため男児は鼻から大量の出血をし、洋服を血だらけにして帰宅した。ミッキーマウスを選んだ時は、男児の耳をつかんで乱暴に上に引っ張り上げたため、両耳が無惨に千切れて化膿するほどだった。これらの10カウントは、帰りの会の時、他の児童全員の前で毎日のように行なわれた。
しかも教諭は、これらの刑を実行する時、ニヤニヤ笑いながら、「穢れた血をうらめ」などと聞くに耐えない罵言を男児に投げつけていたのである。虐待を免れようと男児が必死に片づけても、わざとカウントを早くして、時間内に絶対間に合わないようもくろんでいた。
この凄惨な虐待によって男児は、鼻血や耳の怪我の他にも、口の中が切れたり、口内炎ができたり、歯が折れる、右太股にひどい打撲傷を負うなど、連日傷だらけになって帰宅した。不審に思った母親がその都度怪我の理由を問い質したが、男児ははっきり答えなかった。
それだけではない。教諭は、授業中、男児に向かって執拗に、「外国人の血が混じっているので血が穢れている」「アメリカ人は頭が悪い。だからお前も頭が悪い」と暴言を繰り返し、クラス全員でのゲームの最中も、「髪が赤いけん、お前が鬼になれ」「アメリカ人やけん、鬼」と罵り、男児が鬼になるように仕向けていた。
5月末、学校から帰宅した男児のランドセルの中があまりに乱雑なことに驚いた母親が叱って問いつめたところ、男児は、「僕が10秒で帰りの準備ができんかったら、先生に痛いことされるから」と泣きながら「10カウント」を告白。
常軌を逸した担任教師の仕打ちに、さすがの母親も最初は半信半疑だったが、男児の同級生に聞くなどして、このひどい虐待が約2週間にわたり続いていたことを確認する。
意を決した母親は小学校に出向き、在校していた教頭に教諭の暴力行為について抗議し担任の交代を強く求めた。次いで翌々日にも夫婦で校長に面会し、再度担任の交代を要求したが学校側は回答を留保。代わりに、教諭の授業中に監視役をつけるという異例の措置を講じる。
ところが教諭は、監視役の教師の目を盗んで、拳で男児の頭を殴るなどの信じがたい暴力行為を続けていたことが明らかになり、6月末、学校側は教諭を担任から外した。さらにその後、教諭が男児に自殺強要まで行なっていたことが判明する。「血の穢れている人間は生きている価値がない。早く死ね、自分で死ね」と脅したため、男児は自宅マンションから投身自殺を図ったことさえあったという。
福岡市教育委員会は、調査の結果、教諭が児童に対しいじめと虐待を行なっていたことを認め、全国初の「教師によるいじめ」を認定、8月22日、教諭に対し、停職6か月の懲戒処分を言い渡した。しかし、事件はこれで一件落着とはならなかった。
男児は、教諭によるひどい虐待の結果、体の震え、嘔吐、腹痛などが止まらなくなり、9月上旬から小学校を欠席せざるを得なくなった。直後に、非常に重度のPTSD(外傷後ストレス障害)と診断され、自殺の恐れもあったため、大学病院の精神科閉鎖病棟に長期入院する事態となる。
ここに至って男児の両親は、PTSDを理由に、教諭と福岡市を相手取って約1300万円(拡張申し立てにより、最終的には約5800万円)の損害賠償を求める民事訴訟を10月8日、福岡地裁に起こした。
訴訟の先頭に立ったのは、元裁判官で、福岡県弁護士会「子どもの権利委員会」委員長を務める大谷辰雄弁護士。前例のない児童虐待事件に持ち前の正義感をたぎらせた彼は、手紙やインターネットなどで全国の弁護士に呼びかけ、約550人もの大弁護団を結成。記者会見の席で、「男児にしたことを考えれば教師失格。教職を去るべきだ」と怒りを露にした。
12月5日。マスコミ注視の中で第1回口頭弁論が行なわれた。以後、法廷の場で、教師による児童虐待という前代未聞の事件の全貌が暴かれ、この「殺人教師」に正義の鉄槌が下されるはず、だったのである。
ところが裁判は、大方の予想に反して、回を重ねるごとに思いもよらない展開を辿り、驚愕の事実が次々と明らかになっていった...
主なテーマ
冤罪と社会的制裁
児童相談所の対応やその限界
メディア報道の影響
法制度の問題点
いやはや──この映画で描かれた教師の置かれた境遇に近い「でっちあげ」は、実のところ、現代日本において決して稀ではないのではないかでしょうか?
声高に掲げられる「正義」が、時として「悪意」の仮面を被っていることもある...さらに、情報という名の真偽不明の奔流に飲まれ、私たち人間の精神性は「無知」や「無明」に覆われ、「悪魔化」すらしているのではないかと、痛感させられます。
こうした時代にあって、私たちは「他者」や「社会」を糾弾する前に、まず「我が身」を静かに見つめ直し、自らの内に潜む「悪意」に気づき、真摯に「悔い改める」ことこそが求められている──そんな問いを突きつけられた思いです。