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今から100年前の未完の散文...『生徒諸君に寄せる / 宮沢賢治』

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中等学校生徒諸君
諸君はこの颯爽たる諸君の未来圏から吹いて来る透明な清潔な風を感じないのか
それは一つの送られた光線であり 決せられた南の風である
諸君はこの時代に強ひられ率ゐられて 奴隷のやうに忍従することを欲するか
今日の歴史や地史の資料からのみ論ずるならば われらの祖先乃至はわれらに至るまで すべての信仰や特性は ただ誤解から生じたとさへ見え しかも科学はいまだに暗く われらに自殺と自棄のみをしか保証せぬ
むしろ諸君よ 更にあらたな正しい時代をつくれ

諸君よ
紺いろの地平線が膨らみ高まるときに 諸君はその中に没することを欲するか
じつに諸君は此の地平線に於ける あらゆる形の山嶽でなければならぬ
宙宇は絶えずわれらによって変化する 誰が誰よりどうだとか 誰の仕事がどうしたとか そんなことを言ってゐるひまがあるか

新たな詩人よ
雲から光から嵐から 透明なエネルギーを得て 人と地球によるべき形を暗示せよ

新しい時代のコペルニクスよ 
余りに重苦しい重力の法則から この銀河系を解き放て
衝動のやうにさへ行はれる すべての農業労働を
冷く透明な解析によって その藍いろの影といっしょに 舞踏の範囲にまで高めよ

新たな時代のマルクスよ
これらの盲目な衝動から動く世界を 素晴らしく美しい構成に変へよ

新しい時代のダーヴヰンよ
更に東洋風静観のキャレンヂャーに載って
銀河系空間の外にも至り 透明に深く正しい地史と
増訂された生物学をわれらに示せ

おほよそ統計に従はば諸君のなかには少くとも千人の天才がなければならぬ
素質ある諸君はただにこれらを刻み出すべきである
潮や風 あらゆる自然の力を用ひ尽くして
諸君は新たな自然を形成するのに努めねばならぬ

ああ諸君はいま この颯爽たる諸君の未来圏から吹いて来る 透明な風を感じないのか

*TAO LABより
宮沢賢治が1927年に「盛岡中学校校友会雑誌」への寄稿を求められ、書いたものとされています。
しかし、完成に至らなかったと見られ、その下書きの散文が残っておりました。これを朝日新聞の「朝日評論」が1946年の4月号において、加筆・修正された形で掲載されたものです。
宮沢賢治が没後に「朝日評論」によって世に送り出されたわけですが、ご本人が完成させていたらどんな詩となっていたのでしょうか?
興味が〜でも、宮沢賢治は「永久の未完成これ完成である」とも語っており、この詩が未完成であることが、私たちのソウゾウを促してもいます。

21世紀のアフターコロナの今、「マルクスの思想」や「ダーウィンの科学」がある意味、現代の人類を大いに勘違いさせてしまった一助になってしまったこと、歪めないと思います。
思想や科学...それらが現代の「唯物宗教」となり、人々を縛ってしまってもいる...

とはいえ、唯物論に囚われていない銀河に生きる賢治が鼓舞した

「諸君はこの時代に強ひられ率ゐられて 奴隷のやうに忍従することを欲するか
今日の歴史や地史の資料からのみ論ずるならば われらの祖先乃至はわれらに至るまで すべての信仰や特性は ただ誤解から生じたとさへ見え しかも科学はいまだに暗く われらに自殺と自棄のみをしか保証せぬ
むしろ諸君よ 更にあらたな正しい時代をつくれ」

「宙宇は絶えずわれらによって変化する 誰が誰よりどうだとか 誰の仕事がどうしたとか そんなことを言ってゐるひまがあるか
新たな詩人よ
雲から光から嵐から 透明なエネルギーを得て 人と地球によるべき形を暗示せよ
新しい時代のコペルニクスよ 余りに重苦しい重力の法則から この銀河系を解き放て」

この未完の文章に籠められたエネルギーの存在が100年後の私にとても響きます。

それにしても「文字」というものは〜その時の誰かの思考や精神がカタチをまとい時を超え、未来に生きる誰かを動かす、そんなチカラが...ある意味「奇蹟」です。
ものごころつく前から「本」からそんなチカラをもらいつづけていたこと、今、ハッキリと理解しました。
そうか〜それに対する恩返しで、経験も無く、相変わらずの無謀キャラ:)で、ヒトを通して降りてきた光を宿していると思われる「文字たち」をリアルにカタチにする活動=「出版」という、、、超大変でリスク多いけど、「出版者」として遣り甲斐とともに使命いただき、今、させて貰っているとあらためて。

天晴れ!顔晴れ!!タオラボブックス〜というわけで「ブッククラブタオ」というステージ、降りてきました〜時を超えた誰かのエネルギー受け止め、未来の誰かに繋げる無謀な挑戦は続く...

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