MAGAZINEマガジン

連載

本日の一冊

少女漫画の歴史を変えた作品の一つであるパイオニア的野心作〜水野英子の「ファイヤー!」

ファイヤー1.jpg

*ファイヤー!
ソウル・ロック・コミック『ファイヤー!』は水野英子による漫画。『週刊セブンティーン』(集英社)に1969年秋から1971年夏に連載。音楽の表現を絵で試み、少女向け漫画でロック歌手である男性が主人公だったり、初めて裸やベッドシーンを描いたことでも話題になったなど極めてユニークな作品だった...美少年もののルーツともいえるのでは?

あらすじ
貧しい夜学生のアロン・ブラウニングはファイヤー・ウルフの歌に感動し、音楽に目覚める。プロのバンドファイヤーを結成し、人気を得て成功するが、アロンの心は病んでいく。ついにアロンはステージを捨て、フリーダムと名乗って自由を歌いながら、破滅に向かって荒野を進む...

ファイヤー.jpg

水野英子 談
『編集部に「グループサウンズの話を書きたい」「少年が主人公だけどいい?」と話をして、オーケーをもらって。でもこんな話になるとは思わなかったのでは(笑)。

当時はロックの全盛期で、ピンク・フロイドやジミ・ヘンドリックスの音楽がガンガン鳴っていました。ビートルズはクラシック音楽を主に聴いていた私にはちょっと単純すぎたのですが、その後のプログレッシブ・ロックにはものすごくのめり込んだんですね。みんな反体制のメッセージで、今までの価値観が溶解し、新しい価値観が出てきた。私はすごく共感して、これを描かなければと思ったんです。

たとえば、長髪がはやったでしょう。なぜ男性は髪を長く伸ばしてはいけないのかということを、それまでは夢にも思わなかったと思う。今までの決まりをとにかく壊していく。なぜ自分たちがそれに縛られなくてはならないのか。生まれたままの姿になろう。ベトナム戦争が泥沼化して西洋思想の限界が分かり、キング牧師、マルコムXなどによる黒人運動も一気に出てきた。今まで抑えつけられていたものが全部力を増してきて、今までの体制を抑えつけたんです。それに感激したんですね。

描く前に欧米で取材旅行し、深夜のアンダーグラウンドでいろんな所に潜り込んでライブを聴いてきました。日本のグループサウンズが足元にも及ばないような力のある人たちが歌っていて、素晴らしかった。

連載が始まって、それまで1日20~30通来ていた投書がぴたっと止まりました。でも何がやりたいのかが分かってからの反響は、すさまじかった。とにかく全力を振り絞りましたね、あの作品は。これは絶対に今描かなければならない作品だと、今描かなければ意味がないと...

ラブを口にできない風潮があったり、漫画は低俗な悪書と言われました。その時代に、漫画で女の子たちの意識を変えていったという自負があります。私の作品が、のちの少女漫画家に少なからず影響を与えたと言っていただくのはありがたいです。 』

水野英子.jpeg

トキワ荘唯一の女性マンガ家・水野英子。水野さんは山口県出身、15歳の時マンガ雑誌『少女クラブ』でデビュー。昭和33年、石ノ森章太郎、赤塚不二夫との合作執筆のためトキワ荘に暮らしました。同時期のデビューはわたなべまさこさん、牧美也子さん。手塚治虫さん、石ノ森章太郎さんらとともに彼女たちの影響を受け、その後、萩尾望都さん、竹宮恵子さん、山岸凉子さん、大島弓子さん、山田ミネコさん、ささやななえさん、樹村みのりさん、木原敏江さんなどの24年組といわれる男性漫画の世界をある意味超えるような逸材が現れる...

*TAO LABより
ちょい遅ればせながら70年代初頭、思春期から20代にかけて日本の少女漫画もたくさん読みましたが、何故か急にあらためて、これ、読んでみたくなり、手にしました。やっぱ、日本の漫画、スゲェ〜〜〜:)


NEXT

PAGE TOP