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LAB LETTER

3 あとがき 獄中閑 -我、木石にあらず- 

*TAO LABより
解説』『まえがき』につづき、今回は『あとがき』を。


*『あとがき』by 川口和秀
 神戸拘置所在拘中、実話時代に森田健介さんが『健坤一擲(けんこんいってき)』というタイトルで連載してました。その森田さんから面会や手紙を頂き、返信したりと交流しておりました。そんな私の返信を実話時代の酒井信夫さんが読み、何でか???「拘置所から何でもいいから森羅万象を書いてくれないだろうか?」と何度も要請されたのです。私は「恥や頭、さらに、へんずりなら何度も掻いたことはあるが文字を書いたことはない。」と断ること数度。然し、徐々にチャレンジしてみるかとの思いが募り、連載が始まったのです。

 神戸拘置所と大阪拘置所と場所は変われど約二年続き、無実にも関わらず裁判で有罪確定ということで拘置所から宮城刑務所に行くことになり、十年ほど中断。その後、宮城刑務所受刑から府中刑務所に移送され、出所一年ほど前から再び投稿依頼があり、府中刑務所編の連載が始まったのです。受刑して知ったことですが、受刑中であっても投稿可だったのです。

 身体も自由になり、七年(2017年、現在)が経ちます。この連載時の文末には「ヤクザ」を捩って「厄坐」(災難が居座り続けるの意味)と書いてました。現在は「厄挫」(災難が根負けし、去ったとの意味)と書ています。

 私の日常について参考までにお伝えします。

 不健康な時は気力も下降気味で思考もネガティブになりがちです。獄中で二度の死線をさ迷うことにより心身の健康の大切さを実感しました。故に気力とともに体力の保持にも可能な限り獄中内でも運動時間は筋力保持に努めたのです。

 一七〇センチの私が五十一キログラム台迄体重が落ちたことから、出所後は起床と共に黒ゴマをドロドロになるまで咀嚼、そしてコーヒーを一杯。肘を足先で支え約五分。背筋二〇〇回、拳腕立て一〇〇回、頭でブリッジ、柔軟体操で計約三〇分。身体を慣らせ八〇〇〇歩から一〇〇〇〇歩、歩くこと約一時間。帰宅し一日一回の食事、ご飯一杯、五種類の副菜、ヨーグルトにビルベリーをスプーン一杯、〆にコーヒー。食後、写経を一枚が殆どの日課です。

 東海テレビの『ヤクザと憲法』に出る切っ掛けは、作家の宮崎学先生から「ヤクザの現状を取材したい旨、東海テレビから打診あり、川口さん、どうですか?」と問われことから。丁度、問われる数ヶ月前、NHKの『決断』というドキュメンタリー番組に協力した折、NHKには念を押し、お願いしたことが在りました。それはヤクザの子供と判明したため、幼稚園児の通園拒否の現実が全国で三例在るので資料とともに提供。親がヤクザで在っても、その子供には罪は一切ありません。その差别とも云える事実を放映してもらう旨、頼んだにも関わらず、放映されずに失望したからです。だから東海テレビにはその事実を入れ、伝えて貰えるなら、どんな場面でも「素」で撮ってもよいと承諾したのです。

 私の座右の銘は『止持作犯』です。これは「してはならない事をしないのも大切だが、しなければならない事をしないのはもっと罪だ。」との意。善悪の二元論でこの言葉の意味を捉える事と絶対の真理を求め、この言葉を捉える事では自ずと行動は変わってきます。『ヤクザと憲法』に出ることを決意した理由は私なりのその言葉の具体的な行動実践なのです。

 余談ながら「獄中閑」を出版したTAO LAB BOOKSからは「バガヴァッド・ギーター 神の詩」というインドの聖典神話が出版されています。そこに書かれている内容とこの『止持作犯』の意味はまるで同じと受け止めました。一読をおすすめします。

 私は『和』という響きも好きです。「グレー」という色は時には忌み嫌われますが、私が刑期を終え、娑婆に戻る時に着たものは銀鼠色の作務衣でした。生きていると「白黒」決着をつけねばならぬことも在りますが、「おもい愛」「ゆるし愛」「みとめ愛」の実現には「白黒」の間にある様々な「グレー」も必要では?そんな想いも込め、この本の装丁を「鼠色」としました。それも「明るい輝くような鼠色」に。

厄挫 川口和秀

獄中閑3.JPG
川口和秀 :般若心経写経


*おまけ 川口和秀氏が通う食堂のおばちゃん

*TAO LABより
大阪新世界名物は通天閣とビリケンさんとこの人情溢れるおばちゃんです。いつもお心遣い、ありがとうございます。いつまでも綺麗なままで人生謳歌してくださいね!


獄中閑
川口和秀 / Kazuhide Kawaguchi :著
昭和二十八(1953)年七月二十四日大阪府堺市生まれ。
大阪西成武闘派独立系の二代目東組副組長二代目清勇会会長である。15才の時にこの家業へ、23歳という若さで二代目襲名。平成元(1989)年、暴走した一組員が起こした事件をきっかけに共謀共同正犯に仕立て上げられ逮捕。22年間の獄中生活を送る。
えん罪という不条理に直面しながらも支援者とともに獄中で同人誌 「獄同塾通信」を発行、話題となる。出所後も真実を求めて法廷闘争を続けながら、映画「ヤクザと憲法(東海TV制作)」や書籍「闘いいまだ終わらず(山平重樹 著)」 など独自の表現を続ける。
巧まざるユーモアのセンスと弱者への温かいまなざしで地元でも愛されている現代の俠客。

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