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おかねのしくみ by 新藤洋一

第3回 金はいつどこで作られたのか その1

人々を魅了していった金。輝きや普遍性に加えてその希少性も魅力を高めるための重要な要素でした。金がいつでもどこでも豊富にあるものであったら、ここまで人類に影響を与えることはなかったでしょう。

人類がこれまでに産出した金は約16万t。オリンピックプール3個分です。地球上に存在する金の75%が既に掘り出されました。新たな金はあと20年で枯渇するといわれています。これに対して、これまでの銀の産出量は100万tに上ります。金よりも多くこの世に存在しています。
相場価格は産出量以上に開いており、金が1g5千円近くするのに対して、銀は1g60円程度です。ただし銀は、近年の精錬技術の発達と大銀山の発掘があるまでは、希少な物質だったので、昔の価値は今より遥かに高いものでした。

錬金術。金を人為的に作り出すことができればどんなに素晴らしいだろう。人類は遙か昔より夢想し、多くの人が挑戦してきました。
17世紀のヨーロッパ。錬金術師のウェンツェル・ザイラーは、銅や錫(すず)から金を作ることに成功したことで、貴族の地位を手に入れました。ところが、200年後になってそれが偽物であることが分かったのです。ついに錬金術は夢で終わることになりました。
*最近の科学では、錬金術は「理論的に不可能ではない」といわれていますが、長い年月と膨大なエネルギーが必要であり、コスト的にやる意味がありません。

金の元素記号はAu、原子番号は79です。中学の理科や高校の化学で、元素記号と周期表というのを習ったと思います。「水兵リーベ僕の舟」と覚えた方が多いのではないでしょうか。あれを思い浮かべて下さい。
H(水素)、He(ヘリウム)、Li(リチウム)、Be(ベリリウム)、B(ホウ素)、C(炭素)、N(窒素)、O(酸素)・・・原子番号1の水素から順番に並んでいます。原子番号とは原子量を示しており、番号が多くなるほど重くなると考えて下さい。
宇宙を含めた自然界には92種類の元素が存在しています。そしてこれらの元素がいくつか組み合わさって、さまざまな物質や動植物の体などを作っています。

元素記号.JPG
【図はWikipediaより引用しました】

宇宙ができた頃には、水素とヘリウムくらいしか存在していなかったといわれています。水素が集まって太陽のような恒星が生まれます。その中心は高温高圧になり、水素が核融合することでヘリウムが生まれます。原子番号1の水素同士が融合して原子番号2のヘリウムが生み出されるのです。

単純にいえば、この理屈(核融合)ですべての元素が作られていったのですが、ことばで言うような簡単なものではありません。
太陽の中心温度は1500万度。ここでも水素が核融合してヘリウムが生まれています。しかし太陽でできる物質はここまでです。それ以上の重たい元素が生まれるには、太陽が寿命を迎えるときのエネルギーを待たなければなりません。
水素が燃え尽きた(核融合ですべてヘリウムになった)太陽は、そこで最期を迎えます。金星までをも飲み込む赤色巨星となり、中心温度が2億度になります。そこでヘリウムが核融合して炭素や酸素が生まれます。
100億年といわれる太陽の寿命が尽きたときに、ようやくヘリウム以上の重い元素ができるわけですが、太陽クラスの大きさの星では、ここまでが限界。原子番号8の酸素までしか生み出せないのです。原子番号79の金を生み出すには、さらなるエネルギーが必要になります。


*プロフィール
作農料理人 人類研究家
新藤洋一(しんどうよういち)
1963年群馬県生まれ
1991年脱サラ後、飲食業を営みながら食糧とエネルギーの自給に取り組む。
自給生活の様子は「自給屋HP 」に掲載中。
(自給屋としての営業は2018年12月ですべて終了します)

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